地元の法律事務所に電話をかけて予約を入れたあの日。
「もう決断するしかない」と覚悟は決めていたつもりでしたが、やはり緊張はありました。
弁護士事務所への初訪問|覚悟を決めて「お願いします」と言った日
予約した日に訪問すると、若い弁護士の方が丁寧に迎えてくれました。
まずは私の状況を大まかに説明。法人の破綻、個人資産の枯渇、支払いの継続不能……。
一通り話し終えたあと、弁護士の方からは、
「では、進めるとしたらこういった費用がかかります」
という説明がありました。
契約と費用の説明|着手金・預託金の内訳と支払い方法
今回私に提示された費用は「着手金」が50万円と「預託金」40万円、合計90万円。(金額はフェイクにしていますがおおむねこれくらいでした)
着手金は弁護士の報酬、預託金は裁判所へ納める破産手続きのための実費です。内心この倍くらいを覚悟していたので、安い額では無いものの少しほっとしました。
なお、当時現金はほとんど無い状況だったので、生命保険を解約するなどして用意することにしました。
「さあ、どうされますか?」と尋ねられましたが、
私にはもう「お願いします」という選択肢しか残っていませんでした。
その場で契約を交わし、あとは指定口座に振り込めば正式に依頼成立。
弁護士側で「受任通知」を出してくれることになります。
受任通知が送られると、返済が一時停止される
受任通知とは、弁護士が「この人の破産を担当します」ということを債権者(借入先)に伝える書類です。
弁護士から各債権者に受任通知が送られると、そこであらゆる支払いはストップされます。逆にへたにどこかに返済金を払ってしまうと偏頗弁済といって免責を受けられなくなりますので、これは弁護士から強く注意を受けます。
払って良いのは家賃、光熱水費、食費などの最低限の生活維持費くらいです。
会社員などで個人の自己破産だけの場合、返済がストップすることで、この時点で家計が一気に楽になるはずです。
でも…事業停止=収入ゼロ。再就職活動が避けられない現実
私の場合は、法人の破産も含んでいました。つまり、事業は完全に停止。
売上も、注文も、入金もゼロ。
それまで細々と続けていたネット販売も完全に止まり、一切の収入が途絶えることになりました。
売上が落ちてきたため半年前から飲食店のバイトはしていましたが、それだけで生活は到底成り立ちません。この時点から、再就職活動を始めざるを得なくなったのです。
(※この就活エピソードは別記事で詳しく記録する予定です)
自己破産に必要な書類集めの苦労|法人と個人、両方の証憑整理
もうひとつ大変だったのが、提出書類の準備でした。
- 法人としての決算書・損益計算書
- 契約関係の資料(リース契約、借入契約、納品書など)
- 自分個人の通帳、保険、資産、借入履歴
「こんなに必要なんだ」と思うほどの証憑類を集め、整理しなければなりませんでした。
それも“法的な根拠”に基づいて提出する必要がありますから、気持ちの整理とはまた別の意味で大変でした。
弁護士に依頼したあとも、心は休まらなかった
でも、正直に言えばそこから数ヶ月は「生きた心地がしなかった」のです。
私が最も不安だったのは、「この破産はちゃんと認められるだろうか?」ということ。
支出の内容について、何度も問い合わせがあった
依頼の時にあらかじめ持ち込んだ資料、そして弁護士から提出指示があった資料を送ると、そこから私の資金状況について入念に調査が開始されます。
「○月○日の出金はどういう理由ですか?」「これは何に使ったのですか?」など逐一連絡が来ますが、特に問われたのは、破産前の1年以内にあった“やや大きめの出金”についてです。
10か月ほど前、売上低迷の対策のため新たな事業を考えてその研究と視察のため出張旅行をしたことがありました。遠方で数日にわたっての出張だったため宿泊費もそれなりにかかっていました。
この段階では決まった取引先があったわけでなく、事業としての正当性を証明するものがありません。はた目には「遊びに行った旅行」となんら変わらないのです。
- 「これはどんな性質の支出ですか?」
- 「業務と関係がありますか?」
一応きちんと説明しますが、この段階で「ひょっとしたらこれはマズいのだろうか」と不安になりました。
それと、私はパチンコ・競馬等ギャンブルを全くやったことが無いのでそれについては安心していましたが、何度かTOTOくじの購入履歴があり、それもギャンブルとみなされるそうで、これも指摘された時はかなり動揺しました。
「えー、、、TOTOや宝くじなんてみんな買うよね?(泣)」
心ではこんなふうに言い訳したくなりますが、破産するような人はそもそもそんなことにお金を使ってはダメなのです。
「破産して楽になる」は幻想だった|心の負荷はしばらく続く
こうした問い合わせがあるたびに、「破産が認められなかったらどうしよう」「免責が下りなかったら…」という不安に押しつぶされそうになり、法律事務所へかけこむ前の時のように夜寝付けなくなることが度々でした。
返済は止まった。けれど、心の不安はむしろ加速したようにさえ感じました。
今思えば、こうした「精神的な揺れ」も含めて、破産というのはただの手続きではなく、人間としての再構築期間だったのだと思います。